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ヴィーガニズムから世界をみる雑誌『HUG』創刊

『HUG』は、ヴィーガニズムから世界を見てみようと試みる雑誌です。

気候変動が世界的課題となったことで、ベジタリアンやヴィーガンといった選択は、日本でもぐんと身近なものになりました。『HUG』では、ライフスタイルとしてのポジティブな選択肢をできるかぎり共有していくと同時に、「なぜヴィーガニズムなのか」についての情報発信をしていきたいと思っています。

ヴィーガニズムとは、「暮らしの中からできるだけ動物の搾取をなくしていこう」という考え方のことです。そして、動物の暴力からの解放を望む実践でもあります。

とはいえ、ヴィーガニズムは、動物たちのためだけの考え方ではありません。なぜなら、人間と動物の関係を見直すことは同時に、世界中で起きている気候変動や労働の問題、不正義などに目を向けることにもつながるからです。

創刊号の中で翻訳家で執筆家の井上太一さんが詳報くださっているように、「ヴィーガニズム」の解釈は広く、歴史もとても長いものです。ときにその思想は、人間同士の差別や紛争へのさまざまな抵抗、命の存在を認めてほしいと願う人々の運動とともに形成されてきました。ですから、ヴィーガニズムの考え方自体も実績も、時代とともに変わるのでしょう。

だからこそ、ヴィーガニズムとは何かをさまざまな文脈から探ろうとする試み、ヴィーガニズムを起点に現代社会を読み解こうとする試み、その模索の過程を歴史のなかに残していくことも、『HUG』が目指そうとする役割の一つです。

そして、人間による動物利用を見直すことは、大量生産大量消費の社会を終え、未来になにを残すのかに思いをよせることのようにも思うのです。

創刊号について

最初の号の特集は、「動物の権利とヴィーガニズム」です。

現代社会における日々の暮らしは、衣食住を通じたたくさんの動物のいのちのもとに成り立っています。しかし、制度的な動物利用が一般化する中で、当の動物たちがどのように扱われ、命を終えているのか、まして動物たちの内面世界はなかなか表に出ることはありません。「元」動物だった目の前の商品が、どのような過程でここにあるのかも、知ることはとても難しいです。

人間は、人間のためにならなぜ動物のいのちを奪っていいのでしょう。みな、幼いころに一度は考えたことがあるのではないでしょうか。人間はなぜ、特定の動物を自由に扱っていいようになっているのでしょう。その、わだかまりのない答えには、いまだ出会っていないような気がします。私たちの企画のスタートはここにあります。

動物倫理を専門にされている田上孝一先生が創刊号の原稿のなかで、こんな言葉を書いてくださいました。

「動物が必要なのはもっと基本的で、人間ならばあまりにも当たり前すぎて権利とすらいえない類のものである。それはただ単に生存することができるという意味の生存権であり、正当な理由なく監禁されたり苦痛を与えたりされない権利である」

動物の権利とはつまり、動物の命の尊重であり、人間が、動物の存在をどう扱うか、という問いそのもののような気がします。動物の暴力からの解放を望むとき、その最初の一歩は、動物の命を、人間のものと違うものとしてみるのではなく、同じ命としてみることから始まるのではないか。そんな思いで、最初の特集を「動物の権利とヴィーガニズム」にしました。

「他者の命をなぜ奪っていいのか」の心地よい答えを求めるのではなく、「なぜ奪ってはいけないのか」を考えることから、他者への思いやりや配慮が生まれるのだろうと思うからです。

とはいえ、動物の扱いについて語ることは同時に、人間社会に生きる私たちに居心地の悪い思いを強いてしまうことを理解します。その心苦しさがあります。でも、戦争加害者が被害について語ることで過ちの連鎖が止められるように、マジョリティがマイノリティの声を聴くことで文化が変わるように、圧倒的力をもつ人間が他のいのちに思いを向けることで変わる何かがあるはずです。

動物倫理や、人と動物の関わりを専門としている多くの尊敬する先輩方にご寄稿いただきました。

私たちの最初の雑誌です。そのため至らない点も多いかと思います。それにも関わらず原稿をよせてくださった方々、お話をお聞かせくださった方々に感謝します。すべてがいまの時代に必ず必要なメッセージです。ぜひ、お手にとりください。

最後に、この分野に興味があるライターさん、翻訳者さんを募集しています。理念に賛同くださる方なら、ヴィーガンかそうでないかは問いません。少ない人数で動いているため、しばらくは細やかなやりとりができないかもしれませんが、ご興味のある方はご連絡をください。

HUG編集長 Haru(丸井 春)


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『HUG』創刊号

2023年1月15日発売
A5版、96ページ
1200円(税別)
ISBN978-4-9912960-0-0
・Amazon はこちら
・Amazon以外のご購入はこちら

目次
特集 動物の権利とヴィーガニズム

・ビーガニズム小史― 動物の権利との関わりから
井上太一
・何が「存在」を「道徳的存在」たらしめるのか― 動物倫理からみる肉食
田上孝一
・性の支配と機械化されるからだ― フェミニズム的観点から
スナウラ・テイラー、アストラ・テイラー
・「人新世」の動物たち― 写真でみる人と動物
ジョアン・マッカーサー
・基本的人権と基本的動物権― 肉を食べないという選択
浅野幸治
・「美しさに犠牲はいらない」の現在地― 化粧品のための動物実験
東 さちこ

● コラム りんごと映画と子どもたち― 祖国タンザニアへの贈りも
● インタビュー 「引く」ことから始めたヴィーガン生活は、ハッピーで溢れていた。
ヨンさん、サヤカさん
・ヴィーガニズムにまつわるいくつかのギャラリー
・数字でみる日本の肉食
・POWER OF BOOKS
・HUG について

編集者、デザイナー、時々翻訳。一般社団法人日本ヴィーガニズム協会代表理事。『HUG』編集長。新聞社と出版社で14年働いたのちフリーランス。
動物の権利/ヴィーガニズム/ヴィーガン/気候変動/エネルギー/座禅/サウナ/ワイン/読書