実験のために首を固定されたうさぎ。うさぎは歴史的にも、主に化粧品や医薬部外品のための試験に使用されてきた。 スペイン、 2019年。Photo by Carlota Saorsa/HIDDEN/We Animals Media
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化粧品のための動物実験、日本も禁止にしませんか。

「美しさに犠牲はいらない」の現在地

化粧品のための動物実験は、2013年にEUが全廃したことを皮切りに、世界的に禁止の流れになっています。近年は動物実験をしていない、いわゆる「ヴィーガンコスメ」も増えました。そんななか、日本はいまだ規制がない状況。なにが問題でしょうか。この分野に詳しいPEACEの東さんに聞きました。

東さちこ

あずま・さちこ 任意団体「PEACE」代表。動物実験、畜産、動物園、野生動物取引など人間に搾取される動物の現状やあり方について調査、普及、提言活動などを行なう。

禁止進む世界、日本は規制なし

  ――化粧品のための動物実験は、人類による動物利用のなかでは比較的見直しが進められている分野だと思います。動物実験をしていない、いわゆる「ヴィーガンコスメ」も増えてきましたね。日本でも、東さんたちの団体やJAVAさん、アニマルライツセンターさんなどが提唱した「美しさに犠牲はいらない」というキャッチコピーは、多くの人々の心に、かなりダイレクトに届いたのではないでしょうか。とはいえそんな日本ではまだ規制がないなど、いまいち状況をつかめずにいます。化粧品のための動物実験について、世界的な規制の現状から教えてください。

東 さちこ(以下、東) 私たち「PEACE」のサイトにも化粧品のための動物実験を禁止等している国の一覧を載せているのですが、世界的には、化粧品のための動物実験の禁止が広がっています。大きなきっかけは、2013年にEUが化粧品のための動物実験を法律で全面禁止にしたこと。これは1993年には決まっていたことでしたが、段階を経てようやく実現しました。それ以降、一気に世界に広がった感じです。

 今では、世界42カ国で法的に禁止または制限されていて、EUやイギリス、イスラエル、ノルウェー、スイス、インドなどは、実験実施の禁止だけでなく、動物実験をした成分を含んだ化粧品の販売、輸入も禁止しています。いわゆる化粧品のための動物実験の「全廃」ですね。新しいところだと2021年に、メキシコが北米で初めて同様の法律を成立させて注目されました。

 アメリカの10の州やニュージーランド、オーストラリア、トルコ、韓国、台湾、グアテマラなど、完全禁止ではないけれど何らかの禁止規定が設けられている国や地域もあります。販売の禁止であれば、実質「全廃」と言って良いでしょう。

  ――禁止に向けた法案審議が進められている国々もありますね。

 そうですね。ですが残念ながら日本では、国として禁止や規制に向けた動きはまだありません。もちろん、だいぶ前から化粧品のための動物実験を法的にも廃止しましょうという動きは市民の中から出ていました。しかし、国会に法案が提出されるところにはいたっていません。超党派の議員さんたちで法案を作りましょうといった動きがあったことはありますし、私や他の動物保護団体さんなども提言などで参加していたのですが、ちょうど動物愛護法の改正と時期が重なってしまって、中断している状況です。

企業まかせの現状

  ――現状、日本では動物実験をどうするかの判断は各企業に委ねられているということですね。

 はい、そうです。ただ、EUでの全廃以降、日本でも、大企業を中心に、動物実験をしない選択にシフトしたブランドは増えました。

 実は、日本でもいわゆる「化粧品」を製造販売する場合には、動物実験が必ずしも求められているわけではないのです。2001年の旧薬事法改正までは、過去に日本の化粧品で使われたことのない成分を使う場合には、たとえ海外で広く使われていたとしても動物実験が義務づけられていました。それが改正を機に、その責任は各企業に委ねられることになったのです。ですので、自分たちで動物実験をしないで商品を出す、いうことは仕組み的には可能です。過去に動物実験がなされ、すでに安全であることが確立されている成分は世界中に何千とありますし、それらを、動物を使わない試験(代替試験)と組み合わせて使用することもできます。

 一方で、いまだに「安全性を確保するため」として、長年続けてきた動物実験を続けているブランドも根強く存在します。自社では動物実験をしていなくても、原料調達先の会社が実施しているケースもあります。

  ――大企業の方が動きが早い、というのは少し意外です。

 資生堂をはじめ、花王、マンダム、コーセーなどといったいわゆる大手企業のほうが、化粧品の動物実験廃止に積極的でした。なぜかと言うと、大手だとそれまでの成分を見直したり、動物実験を代替法に切り替えていったりするための研究技術や資金、人材など「力」があるんです。逆に中堅程度の企業だとそれらの確保が難しい。それまでのやり方を変えて新しい方向に舵を切るということのハードルが高いのだと思います。それに、大手企業の場合は海外展開もしていますから、製品を輸出するためには止めざるを得ないという事情もあると思います。

  ――動物実験がされていたら、少なくともEU圏では販売できないですしね。

動物実験が義務づけられている分野も

 そして日本では、動物実験が明確に義務づけられている分野もあります。厚労省は、化粧品によって人体への危険が生じることが無いように、配合成分に対する具体的な規制「化粧品基準」を設けて公表しています。その基準別表の防腐剤、紫外線吸収剤、タール色素のリストに新たな原料を加えたい場合には、要請時に、12種類の毒性試験をしなければならず、そのうちの11の試験で動物実験が求められています。薬用化粧品の場合にも、新しい原料や添加物を配合する商品を製造販売する場合、7~14ほどの毒性試験が必要です。

  ――それはどのぐらいの規模で行われているのですか?

 はっきりとしたところは分かりません。実は日本では、動物を使った実験をする際に国の許可等も必要ではなく、何の動物をどのぐらい使ったのかというような報告は義務付けられていないのです。これは化粧品に限らず、医学研究やあらゆる他分野の動物実験でも同じです。ですから、それぞれの企業や研究所で、どういった規模でどんな実験がされているのかというのは国も把握しておらず、データもなかなか出てきません。それに対して、EUでは加盟国に実験動物の使用数や目的などを報告する義務があり、化粧品のためにどれだけの動物が犠牲になっているかは公表されていました。

どのような実験がされているのか

  ――化粧品というと、いわゆるコスメを思い浮かべますが、日本でいう「化粧品」と、EUでいう「化粧品」の定義は少し異なることの確認も必要ですね。日本での「化粧品」とはファンデーションや口紅、シャンプーやリンス、化粧水などいわゆる身体に対して使用されて、かつ人体に対する作用が緩和なもの。一方で、美白用品やUVカット用品、育毛剤、薬用歯磨きなど効能を謳うものは、薬用化粧品と呼ばれて「医薬部外品」に分類されています。EUでいう「化粧品」には、日本での「化粧品」と「医薬部外品(そのうち薬用化粧品等)」が両方含まれている。

 そうですね。おそらくいま日本で動物実験をしているだろうと思われるのは薬用化粧品や医薬部外品のカテゴリーに入るもので、例えば口腔ケアや美白、育毛剤などがそれにあたります。

  ――どのような実験がされているのですか。

 代表的なものは、アレルギー反応や皮膚への刺激・損傷を調べるための実験です。これはモルモットやウサギの毛を剃って皮膚の表面に試薬を塗ったり、皮膚の下に注入したりしてその反応を試験するものです。アレルギーの試験は現在、マウスの耳に試薬を塗って、その後解剖してリンパ節を調べる試験に代替されてきていますが、これも動物実験です。あとは、物質の全身の毒性を調べるために、ラットかマウスに14日間、口から被験物質を強制投与してから殺して解剖する試験や、皮膚に紫外線を当ててその毒性をみる試験もあります。口から与える場合、注射器の先についた管を使って喉から胃まで試験物質を入れられたラットなどは、内臓を傷つけてしまうこともあります。

 また、化粧品のための動物実験として長く使われてきた方法に、ドレイズテスト(眼刺激性試験)というものがあります。これは首を固定したウサギの片目に直接薬品を入れて、シャンプー原料などによる目への刺激や損傷をみる実験です。化粧品のための実験としては代表的なものでしたが、これについては最近では変わってきています。

  ――代替法ができたからですか?

 それもありますね。すでに動物を使わない代替法が採用されていますから。あとは、あの実験って本当に痛いんです。シャンプーが目に入って痛い経験をしたことってみなさんあると思うのですが、この実験でウサギの目には充血や出血、失明などさまざまな症状が現れますし、あまりの痛さに暴れて、首の骨を折って死んでしまうこともあります。なので、OECD(経済協力開発機構)が2012年にテストガイドラインを改訂した時に、痛みが出る場合には鎮痛剤を使ってもよいというふうにしたのです。安全性試験というのは、試験する物質の毒性をみる試験なので、通常、動物実験をする動物に麻酔剤や鎮痛剤など他の薬剤の処置はされません。そんな中で、動物への配慮からこのような手順が含まれることになったのはドレイズテストが初めてのことです。

  ――日本でも廃止の方向なのでしょうか。

 日本でも、遅ればせながら厚労省が2015年に、このOECD判断を「参考までにお知らせいたします」とする通達()を各都道府県衛生主管部(局)宛に出しています。また、動物を使わない代替試験法を行なうためのガイダンスも出てきていますが、実際のところは、代替法で毒性ありとなったものを拾い上げて販売にもっていくために動物で試してみるといった理由で、まだ行なわれていると思います。先ほども言ったように、動物実験の報告義務はないので公開されておらず、動物実験が行なわれた医薬部外品の多くは詳細が公表されないため、明確ではないのが正直なところです。

 いずれにしても、短期であれ長期であれ、試験が終われば動物たちは殺処分されます。

国の動かし方

  ――先ほどウサギの話がありました。私が驚いたのは、化粧品のための動物実験をやめようという動きは、すでに1980年代には生まれていたんですよね。諸説あるようですが、大きなきっかけの一つが、ある動物実験の写真がイギリスの新聞に載ったこと。それがまさにドレイズ試験をされているウサギの写真だった。それによって社会が化粧品のために動物実験がなされているということを知り、廃止を求める多くの声が生まれた、と。それは化粧品業界にも大きな影響を与えたし、代替法の研究が積極的に進められることにもつながったと聞きます。こうみると、市民の声が国を動かしたのだなと思うと同時に、現在においても、特にイギリスやEUでは企業や研究施設も積極的に人々の声に耳を傾けているなという印象です。

 特にEUは市民の声が政治に届きやすい社会なのだと思います。EUには現在、「欧州市民イニシアチブ」という制度があるのですが、これは、EUが権限を持つ政策分野について、加盟国27カ国から100万人以上の署名を集めれば、欧州委員会に対して立法を提案することができるという制度。日本の場合、市民の声を直接国会に届けるには相当高いハードルがありますし、数も明確ではありません。署名を集めて提出しても、審議未了で終わるコトばかりです。一方EUでは、この制度によって、市民に立法提案できる権利を認めているのです。もちろん立法化が保証されるわけではありません。ですが、化粧品のための動物実験についても、動物実験の「抜け穴」を防ぐためにこの制度のもとに署名が集められ、市民どころか大企業も参加するといった動きもあります。

代替法を後押しするために

  ――実際のところ、もちろんまだすべての動物実験に対して代替法が開発されているわけではないですよね。医療分野や生命科学の研究分野など、動物実験が必要な分野はたくさんあるのだと思います。代替法の開発には長い時間がかかるのも理解します。ただそんな中で、代替法の開発が比較的進んでいる化粧品の分野から積極的に動物実験への反対を表明し続けることは、ほかの分野での代替法の研究に拍車をかけることにも繋がるように思うのです。

 その通りだと思います。代替法の開発はこれからもどんどん進んでいきます。代替法を何種類も組み合わせて評価する体系をつくる方向にありますし、もはや海外では、動物実験の代替が必要なのではなく、人の場合でどうかを評価しなければならないという観点で、「動物実験代替法」という言い方もしなくなってきました。そういう新しい試験法の体系はNAMs(新しいアプローチ法)と呼ばれています。医薬品では、動物実験を経て人で試験をしても95パーセントが失敗するため、代替法の開発動機も変わってきています。

 実際に、アメリカではEPA(環境保護庁)が2035年までに哺乳類の動物実験を終わらせる方針を公表しています。また2022年、アメリカ議会上院で、新薬開発における動物実験の義務づけを撤廃する、超党派の「FDA近代化法案」というものが全会一致で可決されました。この法案は、被験物質を臨床試験でヒトに使用する前に動物で試験することを義務付けているFDAのやり方を終わらせるためのもので、下院を通過した法案を修正したものです。最終的に修正法案のほうも下院を通過して成立すれば、新薬開発者が動物実験なしで新薬を市場承認に出す選択肢が可能になります。

動物実験をしていないことを示す、さまざまなマーク。

  ――動物実験の枠組み自体が変化していっているのですね。最後に、今後日本で化粧品のための動物実験をより明確に廃止させていくために、アドバイスをお願いします。

 クルエルティフリーな製品(動物実験していない製品)を選んでいることを、ぜひまわりの方にも発信してください。そして、動物を犠牲にしないでほしいという声を企業や業界団体、国などに伝えていってほしいと思います。私たちも署名などのアクションを呼びかけることがありますので、ぜひご協力ください。

  ――今日はありがとうございました。

1 各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課あて厚生労働省医薬食品局審査管理課通知(事務連絡)「眼刺激性試験を化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するにあたり必要な留意事項」平成27年2月27日

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