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化粧品のための動物実験廃止をうったえるアニメーション「Save Ralph」日本語訳

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化粧品のための動物実験の禁止を訴える短編アニメーション「Save Ralph(セイブ・ラルフ)」は、アメリカを拠点にする国際的な動物福祉団体「Humane Society International(ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナル) 」が制作した4分ほどの動画です。

ことし(2021年)4月にYouTubeで公開されたこの動画は、アカデミー賞受賞者のタイカ・ワイティティを始め、ザック・エフロン、リッキー・ジャーヴェイス、ポム・クレメンティエフ、トリシア・ヘルファなどハリウッドの著名な監督や俳優陣が参加したことでも注目を集め、さらにそのメッセージ性から全世界に拡散されました。スペイン語、フランス語、ポルトガル語、ベトナム語などでも吹き替えられ、SNS上で広がった「#SaveRalph」は、多くの国や地域で化粧品のための動物実験を廃止するための大きな後押しとなっています。

「Save Ralph」の主人公は、化粧品の動物実験を受けることを自分の「仕事」だと話すウサギのRalph(ラルフ)。動画は、人間のカメラクルーが、ラルフを密着取材している、という設定で始まります。

ラルフの表情や声のトーン、動画内に登場する小物のすみずみまでさまざまなメッセージが込められていて、ぜひ動画で見ていただきたい!と強く思うのですが、その一助となればと、日本語訳を紹介します。

シーン1 ソファ:ラルフの自己紹介

最初のシーンは、朝陽が入るラルフの家。スーツにネクタイで正装したラルフが、カメラの前で自己紹介をするところからはじまります。

YouTube「Save Ralph – A short film with Taika Waititi」より。

カメラマン:「OK、カメラ回ったよ。はじめて」
ラルフ:「OK」(と言って、カチンコを鳴らす)
カメラマン:「完璧」
ラルフ:「おー、なんだか映画みたいだね」(と、ちょっと誇らしげな様子をみせるラルフ)

ラルフ:「えーと、ぼくの名前はラルフです。見ての通り、ウサギ。右目は見えなくて、右耳は何も聞こえない。ただ、キーーーン!っていうひどい耳鳴りだけは聞こえるんだ。迷惑な話だよね」

その言葉どおり、右目の周りはただれ、右耳には包帯が巻かれています。

シーン2 洗面所:「人間って僕らよりずっとすぐれてるから」

YouTube「Save Ralph – A short film with Taika Waititi」より。

次は、洗面台の前で歯磨きをしているシーン。ラルフが自己紹介を続けます。

ラルフ:「体の毛はいろいろ剃られちゃってて、背中は上から下まで化学薬品でやけどしてる。あ、でも大丈夫、大したことじゃないんだ。息をしたり体を動かしたりしたときに痛むだけ。…いたた……」

歯磨きを終えたラルフは、カメラに向き直り、続けます。

「結局さ、人間のためにやっているんだからいいんじゃないかな? だって、人間ってぼくら動物よりずっとすぐれた生きものでしょう? 宇宙に行っちゃうぐらいだからね。宇宙船に乗ってるうさぎなんて見たことある? ないでしょう?」

歯ブラシで背中をかきながら話すラルフ。淡々と気さくに話す様子が、かえって何かを押し殺しているようにも見えます。鏡の前のコップに入っている、使い古したたくさんの歯ブラシ。その意味も次のシーンでわかります。

シーン3 キッチン:ラルフの「仕事」

YouTube「Save Ralph – A short film with Taika Waititi」より。

キッチンで朝ごはんを食べるラルフ。

ラルフ:「なにが言いたいかっていうとね、ぼくももちろん宇宙飛行士なんかじゃなくて、実験動物だってこと。つまりぼくの仕事は、実験されることです。父親もそうだったし、母親も、兄も弟も、姉も妹も、ぼくの子どもたちもみんなそう。そしてみんな、仕事をしながら死んだ。ま、ぼくももうすぐそうなるんだけど…」

「でも大丈夫。ぼくらはこのために生まれたきたんだし、きっとぼくたちウサギにとって幸せなことなんだから」

自分を納得させるようにスラスラと話すラルフ。けれど、そう話し終えたあとは肩を落とし、下を向いて大きなため息をついてしまいます。そして目からは涙が…。

ちなみにラルフ、このシーンではさっきまで着ていたスーツを脱いでいます。前の洗面所のシーンを見返すと、ネクタイをほどいている。「出勤」(つまり実験される)準備のために脱いだのですね…。

「じゃ、仕事に行かなきゃ」とラルフがつぶやくと、同時にキッチンの天井が突き破られ、グローブをした人間の手が乱暴に彼をつかみ、どこかに連れ去ります。

シーン4 実験室:仲間たち

YouTube「Save Ralph – A short film with Taika Waititi」より。
YouTube「Save Ralph – A short film with Taika Waititi」より。

連れてこられたのは、実験室。
動けないように首を固定されたラルフが、おそらくあっけにとられていると思われるカメラマンに向かって早口で話しかけます。

ラルフ:「わかるよ、この状況って最低に見えるよね。でもぼくはたった一人でも人間が安全なリップクリームや制汗剤を手に入れたって思えるなら、この仕事をしてて……」

ラルフが言い終えないうちに、同じく固定された実験仲間が割って入ります。

ウサギ:「おい! ラルフ! その人間はなに? なにをしてるの!?」
ラルフ:「あぁ、ドキュメンタリーが何かを作りたいみたい。だから今、ぼくに密着取材をしててさ……」

なんだか居心地が悪そうにするラルフ。
ウサギ:「ねえ!そんなことはいいから、ここから出してくれるように頼んでよ!」

「そうそう、お願いそうして!」と別なウサギが言い、「怖い!」「死にたくない!」「もう嫌だ!」という悲鳴があちこちからあがります。

彼らの声を聞きながら、気まずそうにカメラマンにささやくラルフ。
「あとで編集してくれたらいいから……」

このシーン、ラルフが必死に自分の(そしてこれまでに命を落とした家族みんなの)「仕事」に意味をもたせようと、そうしないといけないんだ、せめてカメラマンの前では……という、そんな複雑な心情が見え隠れします。

この後、人間の手が固定されたラルフに近づいていき、彼のまぶたを押し上げ、シリンジに入った薬剤をラルフの左目に投与します。背後では、「やめて!」「やめて!!」というウサギたちが声が……。

シーン6 ロッカールーム:ラルフからのメッセージ

YouTube「Save Ralph – A short film with Taika Waititi」より。

「仕事」を終え、体をかばいながらヨロヨロとロッカールームに入ってくるラルフ。首にはコルセットを巻き、身体中に痛々しい実験の後が残ります。

ラルフ「それでは……最後に……ひとこと……ひとこと、言いたいことがあります」

と、何かを話そうとするラルフ。でも、カメラには背中をむけたまま。唯一見えていた左目に薬剤を投与されて、目が見えなくなってしまったのですね。

「ねえラルフ。僕たちはここにいるよ。こっちを向いてもらえないかな」と話しかけるカメラマン。

「あ、ごめんごめん。これでいいかな」と振り返ったラルフの目は真っ赤にただれています。

「えーと。アイライナーやシャンプー、日焼け止め、バスルームで使うほとんどのもの。そういったものに動物実験済みの商品を買っている皆さんに言いたいことがあります。あなたや、動物実験を許可している国がなければ、ぼくは仕事を失って、今ごろは路上生活をすることになっていたかもしれません。路上というか、野原とか草原とか、そのあたりで。ほかのウサギと同じようにね」

そう言って、親指を立ててみせるラルフ。

ここで、ラルフの「密着取材」映像は終わります。

美しさのために動物の犠牲はいらない。というメッセージ

さて、ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナルによると、動画の中でラルフに行なわれていた実験、いわゆる「ドレイズ試験」は、目や皮膚への化学的刺激を評価するために70年以上前に開発された実験手法で、主にウサギを中心に「麻酔なし」に行なわれているものだそうです。科学技術の発展によって、今では動物を使用しない実験法が確立されているにも関わらず、美容上の安全性を保証する、という理由で一部の国々で根強く使用されています。

化粧品のための動物実験は長いあいだ各国で行なわれてきましたが、今ではEUを始め、多くの国で実験、さらには動物実験がなされた商品の販売、輸入が禁止になっています。今年9月にはメキシコで化粧品のための動物実験を禁止する連邦法案が上院全会一致で可決。国レベルでは世界41カ国目、北米では初の快挙となりました。とはいえ、日本は多くの国にならい様々なメーカーが独自で動物実験を見送る傾向はあるものの、新規成分配合を配合する場合などについて政府が動物実験を求めている場合もあり、足並みは決して揃っていない現状です。

動画は最後、以下のようなメッセージで締めくくられます。

YouTube「Save Ralph – A short film with Taika Waititi」より。

「美しさのために犠牲になったり命を落としていい動物なんていない」

美しさのための犠牲はいらない。
ぜひ、一度動画をご覧になってみてください。

#SaveRalph

*参考:Save Ralph:Humane Society International

編集者、ライター。
イベント運営会社を経て出版社勤務。言語関連の書籍担当。ベジタリアン。趣味の旅行に行けずに鬱屈した日々をネコで癒す。