日本と世界の驚くべき現実、私たちをとりまく食の現実を知る。
まず目次を読んでハッとする。
知らないことが多すぎる。ピンと来ない数字のオンパレード。
誰もが食べ物を食べて生きている。そのいのちのもとである食べものが大量に捨てられている。世界では、生産量の3分の1にあたる13億トンが毎年捨てられ、日本では、東京都民1300万人が1年間に食べる量が捨てられているという。ぞっとした。
理由は作りすぎ、仕入れすぎ、買いすぎ、残しすぎなどで、企業も私たち消費者もその当事者だ。
食品ロス問題は、環境にも経済にも大きな影響を与えていて、先進国でも途上国でも発生している世界全体の問題である。
食料の本当のコスト
食料自給率は、先進国が軒並み100%を越えるなか日本はわずか27%。残りの63%は海外からお金とエネルギーをかけて輸入している。もし日本が世界から相手にされなくなったら大変だ。また、輸入によって他国の食料を奪っていることにもなる。
著者によると、日本のフード・マイレージは、世界でもトップレベルだという。
一見して頭に「?」が浮かんだのは私だけだろうか。フード・マイレージ(food mileage)とは、食料を運ぶことでどれくらい環境に負荷をかけているかを示す指標で、食料の重さ(トン)に運ぶ距離(キロメートル)をかけて算出する。大量の食料を遠い地から運べば、それだけCO2などの温室効果ガスが排出され地球温暖化につながる。つまり、フードマイレージの高い国ほど、食料の消費が環境に大きな負荷を与えていることになる。日本のフード・マイレージは1人あたり6628トン/キロメートルで、これは世界でも群を抜いて高いのだという。島国であるという特徴が、さらに数値を稼いでいる。
私はハワイが好きなのだが、日本でハワイの食料品が手に入る喜びの裏には多大なる犠牲が払われているという現実があることにも目を向けなければと、背筋が伸びた。
食品ロスとフードロスの違いは?
『捨てられる食べものたち』は4章から成り、さまざまな角度から食品ロス問題を解説している。
私自身、食に興味関心があり、食品ロス問題があるということは知っていたつもりだが、この本を読み、実情をあまりに知らなすぎることを痛感した。用語ひとつとってもそう。例えば「食品ロス」と「フードロス」。この違いはなんだろう? 「消費期限」と「賞味期限」の違いは?
私は正直なところ、これまで混同して使っていた。学習したことを紹介すると……
食品ロス:食べられるのに捨てられる食品全般
フードロス:生産・加工・流通で発生した廃棄物
消費期限:安全に食べられる期限
賞味期限:おいしく食べられる期限
とのこと。さらに読み進めるにつれ、気になる数字が並ぶ。
・日本の子どもの7人に1人が貧困
・世界の9人に1人がいつもお腹を空かせている
・世界の大人の10人に4人は太っている
この本の特徴は、1つのテーマが見開き2ページで完結していること。内容はシビアでずっしりくるが、漢字にはふりがな、平易でシンプルな書かれ方をしており、イメージしやすいイラスト付きで子どもから大人まで親しみやすい。
そして著者は読者に問うのだ。この数字と現実をどう受け止めますか…?、と。
「食を知る」ということ
食は生活の中で一番身近な営みだ。だからこそ、それについて「知る」ことの大切さに気づかされる。食を「知る」ことで、食品ロスだけではないほかの問題にも気づくこともできると思う。
本の中で、都内のある区では、独自の取り組みで給食の食べ残しを7割減らしたことが紹介されている。生産者について知る、栄養バランスについて知る、調理について知るなど、食への興味関心を総合的に高めることで食べ残しを減らしていったという。「食育」の重要性がうかがえる。
小学校教諭をしている友人に聞いてみたところ、家庭の事情によって様々な実情があるようだという。例えば、偏食で給食が全然食べられない子や、好き嫌いの激しい子なども珍しくないらしい。指導要領には食育の規定があるというが、必要十分な食育を行うことはなかなか難しいようである。学校だけでなく、家庭での食育の必要性も改めて感じた。
食育格差という問題もまた、ひとつの現実としてあるのだと思う。
私は、食に関心の高い母のもとで育った。何かと厳しかったが、好き嫌いなく健康に育ち、マナー等も心得て、今となっては感謝感謝である。あの環境は当たり前ではないのだなとも思った。
当たり前が当たり前ではない
日本の食品ロスは年間612万トン。毎日、1人がおにぎり1個分を捨てている。
先日、コンビニで驚いた出来事が2つある。
1つ目は、お弁当を買おうとレジに持って行ったところ、レジのエラー音が鳴り響いた。何かと思えば、消費期限が1時間切れてしまっているため売れないとのこと。そこまで徹底して管理されていることに感激すると共に、1時間の差で食品ロスと化すことに衝撃を受けた。
もう1つは、何やら「ぐちゃっ、ぐちゃっ」っと音がするため、そちらの方へ目をやった。床に置いたカゴに、消費期限切れと思われる商品を、まるで野球ボールを扱うかのようにボンボン投げ入れる店員さんの姿があった。今さっきまでは商品=食べものだったもの達が、食品ロスと化す瞬間だった。店員さんが投げ入れる姿も含めて、こちらも衝撃的な光景であった。
今や、いつでもどこでも食料が手に入る世の中。戦前・戦中・戦後を生きた方々からすると、あり得ない世の中かもしれない。
便利な世の中に生きる私たち。食料が溢れていることをどこか当たり前と思ってしまってはいないだろうか。目の前の食べものが、どこからどのようにして来たのかということに、少しでも思いを馳せてみたり、想像してみたりすることが、食品ロスを減らしてゆく一歩になるのではないかと思う。
最後に
食べもの=いのちそのもの。
この本は、その大切さについて改めて考えるきっかけをくれる。
『課題を知り、考えたら、次はなにか行動を起こしてみる。小さなことでかまわない。1人ひとりの意識が変わり、行動が変わると、私たちの未来が変わる』
特に印象に残ったメッセージである。
皆がそれぞれの立場で当事者になることが必要だと感じた。そして、「見えないものを見る力」を養いたいと強く思った。
小さな行動を起こしてみようと思う。
私は、店で買い物をする際、手前取り(消費期限の近いものから買う)を実践し始めた。
まわりの人たちと食品ロスをテーマに話すことも始めてみた。
今度は、職場の本棚にこの本をそっと置いてみようと思っている。
ひとりひとりができることをできるところから……。
親子で、または学校のクラスで1日1ページずつ読むのもおすすめの一冊。
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『捨てられる食べものたち――食品ロス問題がわかる本』
井出留美著、旬報社、2020年。
1章:「食」についての驚きの現実
2章:食品ロスはなぜ生まれる?
3章:食品ロスを減らすには
4章:私たちにできること
著者:井出留美(いで・るみ)
食品ロス問題ジャーナリスト。株式会社office3.11代表。ライオン、青年海外協力隊を経て、日本ケロッグ広報室長等を歴任。東日本大地震での支援物資の廃棄に衝撃を受け、自身の誕生日でもある3.11を冠した(株)office3.11を設立。食品ロス削減推進法の成立にも協力。講演やメディア出演も多数で、食品ロス問題や解決策についての啓発活動に尽力。