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ヴィーガンを実践する3つの主な動機

動物倫理/環境保全/健康志向

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ヴィーガン とは

ヴィーガンとは、飲食、衣類その他あらゆる目的のための動物の搾取や虐待を、生活から可能な限り排除しようと実践する人々を指す。食生活では食肉や魚介、卵、乳製品、ひいては蜂蜜などすべての動物性の食品を避け、動物園や水族館に行ったり、動物実験を経た化粧品や皮革製品を使用しない。簡単にいえば、彼らは、自身の生活や消費行動にともなう動物への「加害性」から、できるだけ距離を置こうとする。

ヴィーガンにいたる過程はさまざまだが、1944年に「ヴィーガン」という言葉を提唱したイギリスの「ヴィーガン協会」は、ヴィーガンを、その実践の動機から主に3種類に分類している。

ヴィーガンの主な種類

1 エシカル・ヴィーガン(Ethical Vegan :動物倫理重視)
2 エンバイロンメンタル・ヴィーガン(Environmental Vegan:環境保全重視)
3 ダイエタリー・ヴィーガン(Dietary Vegan:健康重視)

とはいえ、動物倫理を重視する者は環境保全にも関心を持つなど、この3 つはむしろ相互に重なりあうことの方が多く、一概にはっきりと分類することは難しい。しかしながら、ヴィーガンになるきっかけとして、このいずれか、もしくは複数が「入り口」になることが多いという。ひとつづつ見ていく。

1、エシカル・ ヴィーガン(Ethical Vegan)

動物の命は人間より軽いのか、という問いは、人間の消費行動の裏で起こるあらゆる場面で存在する。
エシカルヴィーガンは、主に畜産や動物実験などをはじめとする動物の搾取、虐待に反対し、動物倫理の観点からヴィーガンを実践する人々を指す。動物を本来の生育環境から離し、また利用のために育成して利用、殺すことは、動物が本来持つはずの自由を奪い、苦痛を与える。動物が豊かな感情世界を有し、共感を示し、痛みを知覚することは多くの動物行動学者などの研究などで明らかになっているし、それは何も、犬や猫、うさぎなどといった身近な動物たちだけに限ったものではない。
エシカルヴィーガンにとって、動物との共生、動物の解放は、大きなテーマの一つでもある。

2、エンバイロメンタル・ ヴィーガン(Environmental Vegan)

畜産がもたらす地球環境への影響は長く指摘されてきたが、気候変動が緊急に解決すべき地球的問題として表面化した2000年代以降、そのひとつの解決策としての菜食が、徐々に、そして加速度的に世界規模で推奨されることになった。この意味で、菜食は今や、単なる個人的趣向の枠を超え、人類が直面する気候変動に対する責任ある行動指針のひとつになっている。エンバイロンメンタルヴィーガンは主に、気候変動をはじめとする様々な環境危機への観点、さらには環境危機にともなう人道上・人権的観点からヴィーガンを実践する人々をいう

畜産にまつわる様々な形での資源利用は、地球環境の変化をもたらし、あらゆる生物の暮らしや生命を脅かす。また、衣食住や社会的インフラなど、人間生活のあらゆる側面にも影響し、それは貧困層や女性、高齢者など社会的基盤が弱い人々をより直撃する。
エンバイロンメンタル・ヴィーガンにとっての畜産による環境影響への理解は、そのまま人類が解決すべき生物多様性や貧困、人道上のあらゆる問題と地続きである。

また、肉食への依存は、世界が直面する人口増加に、どう対応するか、という問題にもある。国連の推計によると、地球の人口は、2050年、約100億人に達するという。増加する人類の食糧を供給するためには、世界は2010年に比べて56%多くの食糧を必要とする。人口の増加にともなう乳製品や食肉の需要拡大にどう対応するのか。ここにも、肉食からの全体的、また部分的な脱却が求められている

3、ダイエタリー・ ヴィーガン(Dietary Vegan)

WHOの研究機関である国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer : IARC)は2015年、加工肉及び「レッドミート」の摂取により大腸がんのリスクが増加することを発表。食品の発がん性を評価する5段階のうち、加工肉を「人に対して発がん性がある(グループ1=5段階中1番目)」に、「レッドミート」を「人に対しておそらく発がん性がある(グループ2A=5段階中2番目)」に分類した上、肉の摂取を「適量」にするよう、広く警鐘している。ここでいう加工肉とは、塩漬けや発酵食品など文字通り主に保存性を高めるために加工をした肉を指し、「レッドミート」とは、牛肉、豚肉、羊肉、馬肉、山羊肉などほ乳類の肉を示す。曰く、加工肉を毎日継続して1日当たり50グラム摂取すると大腸がんのリスクが18%増加し、レッドミートについては毎日継続して1日当たり100グラム摂取するごとに、大腸がんのリスクが17%増加する、という。

また、現在の工場型の畜産システムでは、「大量に」「早く」家畜を成長させて出荷する目的や、大量生産で起こりうる様々な病気に抵抗するために様々な抗生剤などが使用されている。乳がんや子宮がん、前立腺がんなど、「ホルモン性がん」の可能性をもつ疾患など、健康影響が強く指摘されてきた成長ホルモンは、EUが先陣を切って1988年に使用を禁止、輸入も禁止しているが、アメリカを始めとする諸国はいまだに規制をしていない。日本は、投与自体は規制されているものの、輸入肉に対する制約は設けていない。実際、2018年の牛肉の輸入実績は1位がオーストラリアで輸入量全体の約51パーセント、2位はアメリカで約41%、以降、カナダ、ニュージーランド、メキシコと続くが、圧倒的輸入量を占めるオーストラリアとアメリカでは、牛への肥育ホルモン剤の使用が認められている。

様々な入り口はあるにせよ、ダイエタリー・ヴィーガンは、主に健康志向の面から菜食を実践する人々をいう。

しかしながら、ヴィーガニズムの根底に「動物の搾取と虐待からの解放」があることを考える時、単に健康思考やファッションの観点から菜食を実践する者をヴィーガンと呼ぶかどうかは、世界中で意見が分かれている(ダイエタリー・ヴィーガンの否定ではなく、あくまで、ヴィーガンを「ヴィーガニズムを実践する者」という定義に当てはめる場合)。

まとめ

ヴィーガンを実践するきっかけ、理由は人それぞれだろう。さらに、ヴィーガンの食生活を、地球上のあらゆる環境、状況にいる人々が平等に採用することは不可能だ。それを強いることが正しいことではないことを理解する。とはいえ、動物たちとの共生を考えたとき、広く地球の持続可能性を考えたとき、自身の健康を考えたとき、今の食生活からのシフトが可能な場所に生きていることは幸運なことではないだろうか。命は繋がって生きている。だからこそ、他の命や未来への責任ある行動への選択肢の大きな一つとして、できる人々からまず実践してみる。それは、とても美しく、大切なことのように思う。