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未来の飛行機!? 限りなくカーボンフリーなハイブリッド飛行船がデビュー間近!

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その飛行船は、床から天井に抜ける大きな窓が特徴。二酸化炭素排出量は従来の飛行機より90%削減されるという。

 イギリスの航空機メーカー「ハイブリッド・エア・ビークルズ(Hybrid Air Vehicles)が5月、同社が開発を進めるハイブリッド飛行船「エアランダー10(Airlander 10)」の最新情報をリリースした。
 それによると、エアランダー10は最大100人乗りで、最終的には、従来の飛行機よりも90%少ない排出ガスで運行する。2025年までに電気とジェット燃料のハイブリッドモデルが販売・実用化され、2030年までに完全な電動モデルが発売開始される。

Hybrid Air Vehicles HPより

 エアランダー10の最高速度は時速130kmで、例えば、イングランド西部のリバプールからアイリッシュ海を横断し北アイルランドの首都ベルファストまでの約270kmを、5時間20分で結ぶ。これはチェックインや市街地への移動も含めたエンド・ツー・エンドの所要時間で、HAV社の試算によると、民間航空機の場合には4時間24分、フェリーでは9時間23分かかるという。

 「専用の滑走路を必要とせず、空港のインフラに依存していないため、平らな場所であればどこからでも離着陸できる」とHAV社の最高経営責任者、トム・グランディ氏は語っている。「どこから」には、水上も含まれるというから驚きだ。

 エアランダー10は、飛行機と飛行船、ヘリコプターの能力を兼ね備えており、特徴的な丸く大きな巨体には、不活性で不燃性のヘリウムが充填される。搭載されている4基のディーゼルエンジンのうち、2025年の離陸時には2基を電動モーターに変えるハイブリットで運行され、それにより二酸化炭素排出量を従来より75%削減するという。2030年にはすべてのエンジンを電動にし、排出量をさらに90%減まで削減する。

Hybrid Air Vehicles HPより

 イギリス政府は2021年4月、2035年までに温室効果ガスの排出量を1990年と比べて78%削減すると発表した。温室効果ガスの排出抑制が緊急に解決すべき世界的課題としてあるいま、イギリス国内の気候変動問題への関心は個人レベルでも高まっている。航空分野における温室効果ガスの排出量は、世界全体でみると、輸送機関全体の約12%を占める。飛行機に代わる交通手段を求める声は少なくない。
 HAV社が目指すのはまさに従来の飛行機にとって変わる新しく「エコ」な飛行手段だ。HAVは、すべてのエンジンを電動化した飛行船を「空の旅」に参入させることで、「飛行は環境に悪い移動手段」からの脱却を目指す。

「私たちが疑問に思っているのは、短い距離を移動するために高速の飛行機に乗ることが、いつまで許容されるのか、ということ」(トム・グランディ氏)。

 HAV社のクールさは、必要最低限かつ実用可能な分野をピンポイントにターゲットにすることだ。
 空の旅は、気候変動による不平等の核心のひとつでもある。なぜなら、輸客機による温室効果ガスの排出量のうち、先進国間や国内での排出量が大部分を占める一方で、それによる環境悪化は、より貧しいコミュニティを直撃する。「短距離移動をするためにかけるその環境負荷は、本当に必要か?」。HAV社はそう投げかける。

 だからこそエアランダー10は、例えば太平洋を横断するような長距離便や、高速鉄道がすでに通っている路線とは競合しない。その代わり、例えば米北部のシアトルとカナダ南部のバンクーバー間など、数百キロ程度離れた短中距離の都市同士を結ぶことに重点を置く。HAV社の予測では、この飛行船がまかなえる短中距離移動の需要は、2050年までにエアモビリティ市場の40%を占めるという。将来的には、インドネシアなどの島国やカナダ北部の僻地などでも活躍するだろうと同社は述べている。

Hybrid Air Vehicles HPより

「何十年もの間、A地点からB地点への移動は、小さな窓のついた金属製の筒の中に座ることを意味してきた。これは必要なことではあるが、必ずしも楽しいことではなかった」(同広報ディレクター、ジョージ・ランド氏)

 さらに注目すべきは、飛行機の概念を覆すスタイリッシュな機内デザインだ。

 エアランダー10のキャビンは広々としていて、席は全席「通路側」。床から天井まである窓からは上空の景色を楽しむことができる。さらに低騒音、低振動。とはいえ、他の民間航空機と同様の安全基準および環境適合性基準を満たしており、高温や低温、氷結、風、雨、雪、雷などあらゆる環境下で飛行可能だという。「2025年には最初の乗客を迎えて豪華な空の旅を体験してもらうことを計画している」とグランディ氏は言う。

 空の旅もクリーンに快適に。2025年にはハイブリッド版をクライアントに引き渡す。値段などの詳細はまだわからないが、広々とした窓から地球の姿を楽しむ旅の実現も、そう遠くないのかもしれない。

参考
“Airship to offer low-carbon flights with floor-to-ceiling windows” CNN,28th May 2021
Hybrid Air Veheclesリリース “AIRLANDER’S MOBILITY CABIN CONCEPTS REVEALED”

編集者、デザイナー、時々翻訳。一般社団法人日本ヴィーガニズム協会代表理事。『HUG』編集長。新聞社と出版社で14年働いたのちフリーランス。
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